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Tyrese「Open Invitation」

モデル出身にして実力派のシンガーとしてヒットを飛ばし、最近では映画俳優としても安定した地位を確立するTyreseの通算五作目となる『Open Invitation』を御紹介。ラップと歌の2枚組でリリースした前作『Alter Ego』よりおよそ五年ぶりとなる本作、やはりかなりブランクが空いた感は否めないか。しかしその間にも映画『Transformers』シリーズや『Fast & Furious』シリーズなど、かなりのヒット作品への出演で露出していたので、そんな不在感は無いですね。しかしR&B嗜好家としてはTyreseの演技ではなく歌声が聴きたかったというのが本音、映画もヒットしているしタイミングとしてはバッチリなのかもしれません(憶測)。
それでは気になる内容を御紹介しますと・・・・・・まず最初に述べておくと、本作はBrandon "B.A.M." Alexanderが制作がほぼ全曲の制作を担当しております。こうなるとアルバムの統一感は大抵生まれるのですが、下手すると一枚通して噛み合なかったり、盛り上がりに欠けたりする恐れもあるのですが、本作はいかに。そんなBrandon "B.A.M." Alexander制作曲から紹介、まず「I'm Home」で幕開け。客演にはJay Rockが参加。静かな密閉空間にトコトコと曇った響きで冴える太鼓ビート、そしてけして甘過ぎないビターさも残ったTyreseのブラックなヴォーカル、Jay Rockのゴツゴツと無骨でタフなラップが融合する緩やかなスロウ。R.KellyとRick Rossという間違いない布陣で挑んだ妖艶スロウ「I Gotta Chick」、乾いたパーカッションがどことなくスパイシーで、熱っぽく揺らめきジリジリと焦がす様な電子音も綺麗なミッド。R.Kellyはフックのみ登場だけどすぐ彼と判るし、Rick Rossの重量級のソウルフルなフロウも絶妙に効いています。爪弾くギター弦の軽やかなメロディに乗せて、Tyreseの清涼感というよりもスプラッシュな瑞々しさが溢れる「Stay」。この曲では昔のソウルを彷彿とさせるメロディライン&指スナップが懐かしく、しかし音の引き算をする事でより凛とした華やかさとTyreseの強靭でソウルフルなヴォーカルが映える一曲に。ヒューンヒューンと飛んでゆく流星の様な電子音と、ピアノ鍵盤の壮麗にして繊細なメロディを基軸としたスマートなスロウ「Best Of Me」も素敵。Tyreseの強さと優しさがしっかりとリンクした紳士的な一曲、澄んで晴れ上がった雲ひとつない青空の広がる小さな教会、そんなささやかな幸福を連想しそう。結婚式にはきっとピッタリな一曲、こういう真っ直ぐで眩しい程に白く輝くバラードはとっても好きです。今にも壊れそうなぐらいに細く儚いピアノ旋律が美しく響き渡る「Nothing On You」、ゆっくりと語りかける様なTyreseの多重に織られたハーモニーフックがすごく爽やかで透き通っていて美しい。本作からのシングルカットされていたLudacris客演の「Too Easy」は、怪しく不穏に垂れる様に流れ落ちるダークシンセが黒くメタリックに光るロウな一曲。Tyreseの歌声は活かされていない気もしますが、やはりLudacrisのゆっくりと間合いを取りつつ全てを木っ端ドカンするラップで際立っていますね。まろやか且つ流麗なオールドソウルな空気感満載の晴天チューン「Takeover」はのどかで柔らかくて、Tyreseの微笑みさえ感じる綿飴みたいなソフトメロウでグッド。ベッタリと鳴らされる間の抜けたホーンで始まる「I Miss That Girl」、Ne-Yoなんかが歌いそうな清涼感溢れるすっきりクリアテイストな純水ソウルでまっさら、しかしTyreseの少し掠れた狼声が重なると途端にソウル度が増す不思議。びしょ濡れの浴室に凛と響く様な、そんなウェットでセクシーなメロディがたまらなくて背筋ゾクゾクの「Make Love」が最高。ゆっくりとじっくりと肌を擦り撫でる様なTyreseの濃密スウィートな歌声が素晴らしく、時にギュッときつく抱き締める様なタフなヴォーカルも見事、聴き手は必ず骨抜きにされて溶ける官能スロウジャムです(昇天)。指スナップが静かな空間にパチンと響き、四方に広がる空間を意識させるストリングスの延々と一本の線となって、ぼんやりと全てを優しく包み込む「Angel」。ここでは女性シンガーのCandaceと美しいデュエットを披露、露の様にキラリと輝き溶けて消える二人の歌声が見事に絡み合います。最後を締め括るのはTyreseのスポークンワード曲「Walk... A Poem For My Fans」、ファンに感謝の念を伝えたかったのでしょう。とここまでがBrandon "B.A.M." Alexanderによる制作曲、あと残る二曲はLil Ronnieが制作をしておりまして。まずはキュインキュインと甲高く絞り出す様なシンセが飛び交う「One Night」、ギュンギュン光線が錯綜し滑らかな電子メロディに抑揚をつけるカラフルミッド「It's All On Me」の二曲がそれです。
うーん、良かったですね、山場みたいなものは無かった気もしますが(辛口)。豪華なMC客演を招いたアップ調の曲がかえって、アルバムのスムーズな流れを邪魔していた様に感じたのは、僕だけでしょうか(変人)。まあそれぐらいに、ミッドやスロウの仕上がりは流石Tyreseといった素晴らしいものだったと思います。そういった意味では、ほぼ全曲を手掛けたBrandon "B.A.M." Alexanderの抜かりの無い仕事っぷりの功績は大きい。聴かないのはとっても損、Tyreseの帰還を素直に嬉しく思えたナイスな一枚で御座います。
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